勤務終了後の夕飯を経たら、時刻は22:30をまわっていた。皿を水につけ、米が陶器から剥がれるのを今か今かと待ち受けていたら時刻は23:30をまわっていた。
そうだ、今日自分はUMKさんのU-dokiに出ていたんだった。ご覧いただきました皆さま、ありがとうございます。Katerie(かてりえ)は約15分枠のばっちり特集でしたね。宮崎市がコロナ拡大で大変なときにもかかわらず、ありがたいやら恐縮やら…。明日からも、飛沫を飛ばさぬようマスクをしてお水もたくさん飲みましょう。
ドヤ顔で何かわかったようなわかってないようなことを語る自分の背景には、世界中ほかにどこにもない素敵な図書館「ぶん文Bun」が広がっていた。それはもう壮麗だった。コハチローもテレビデビューしていた。よかったね、コハチロー。
コハチロー@椎葉村図書館「ぶん文Bun」 (@ShiibaVillLib)をチェック! https://twitter.com/ShiibaVillLib?s=09
そうこうしていると時刻は0:00を過ぎていた。僕は風呂に入ろうと思った。 パロマの電源を入れ、TOTOのカランをひねる。お湯が出る。実にいい湯だった。群馬のどこかの温泉にそのままうちのパロマの湯を注いだとしても差し支えないような、いい湯だった。
リヴィング・ルームに戻りハードディスクの映像をパソコンに移せないだろうかとあれこれ考えていたら、時刻は0:20を過ぎていた。僕がこれまでに過ごしてきた30年間と同じように、その僅かな時は伸び縮みしつつも基本的にはベスト・スピードで駆け抜けていった。僕はTOTOをひねり戻した。ふう、悪くない。こんな夜があってもいいものだ。 湯は溢れていた。そしてパロマのリモコン、すなわちガス給湯器の温度操作盤からも、控えめながら主張する光が溢れていた。
「11」と光っている。時刻は0:23を超えようか超えまいか迷っていた。エラー11。そのあまりにも雄弁な数字は、パロマ製のリモコンを通じて僕にこう語りかけているのだ。「火がつきません、ぼっちゃま」。
僕は針金橋団地の玄関扉を開けた。時刻はもう真夜中のそれになっていたが、やむを得ない。お湯は使いたいもの。うちのひとに湯を出してもらいながら、イグナイターの音に耳をすます。火花、よし。三方弁だか嘘も方弁だかが、かちかちと動く。よし。つまり状況はこうだ。電気系統は壊れていないし着火に必要な機械的動作にも支障はないようである、と。 僕は忍びのごとく部屋に立ち戻り、ガスコンロの火をつける。すくなくとも、つけようとしてみる。心の中では、火がつくはずなどないとわかっていながら。びびび、とイグナイターの火花が散るばかりで、そこに着火するガスはこない。時刻は0:30を越えていたかもしれない、越えていなかったかもしれない。いずれにせよ答えは決まったのだ。「ガスメーターによる安全装置の作動」。お風呂のお湯を長時間出しっぱなしにしたことで、ガス漏れや異常な長時間利用を疑ったガスメーターが自動でガスを遮断してくれたのだ。
あとはこのくそわかりにくい復帰操作ページ(http://www.nokyopuropan.co.jp/meterfukki.html)の要領で、ガスを元どおりり通してあげるのみだ。もちろん、周囲からガス臭がしないことを確かめて、家で使っている全てのガス器具の使用をとめて、である。ガスメーターに「さっきはごめんね、うっかりしていたよ。ときにはこういう夜があったっていいじゃないか。埋め合わせは今度するよ、きっと」と言いながら、やさしく復帰ボタンを押してあげるのがコツだ。
そして僕は7月26日の深夜にシャワーの湯を裸いっぱいに浴びながら思うのだ。「ガス会社に少しでもいられてよかった」と。椎葉村という場所で図書館を立ち上げてなお、僕は給湯器のイグナイターに耳すませ、弁の作動音を確認し、ガスメーターの復帰ボタンを押すという一連の動作をよどみなくこなすことができた。ガス会社の基本中の基本だ。
人生は繋がっている。どこにだって無駄はないのだ。
3年後には大道芸人になっているかもしれない。もしかしたら世界をまたにかける銀行強盗になっているかもしれない。それでもなお、僕はエラー「11」をみてもあまり焦らないだろう。道行く途中にエネファームがあればちょっと嬉しくなるだろう。
そういうものなのだ。人生は30歳という節目を迎えたからといって急に変わるわけでもなく、ただ淡々と続いていく。川の流れの中で、どこまでが「上流」でどこからか「下流」なのかがわからないことと似ているのかもしれない。もしかすると僕の意識の流れは、唐突に途絶えてしまうかもしれないのだよHenry James。
だから僕は、今日という日がどんなに大切であろうと、パロマに困らせられようと、はやく寝なくてはと思う。時刻は2:05を過ぎている。失われた時は求められない。どこにいったんだチクショウメ。
さようなら甘美なる時の翁。 また会う日まで、アデュー。
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