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  • 執筆者の写真小宮山剛

2019年3月 椎葉

今年の3月は、東京・世田谷区池尻大橋から椎葉村へお引越しをするということで、ひと月の間移動をしっぱなしであった。移動をしっぱなしということは写真を撮りっぱなしということであり、Googleフォトで「2019年3月」と検索すれば、そこには5,800枚ほどの写真が出てくる。便利な世の中である。なんなら2018年3月と検索すればそこには静岡から東京へ移るときの自分の様子が出てくるし、1891年3月と検索すれば、駿河台に完成したばかりのニコライ堂が出てくるだろう。


・・・そういうわけで、今回はほとんどが写真で覆いつくされ、椎葉に至るまでにどのような道のりを辿ってきたかを述べるに留まるであろう。端的かつ効果的に、東京→四国→福岡→名古屋→京都→椎葉(多分こんな感じ)、と至る道のりをご紹介いたそうと思う・・・。秘蔵ショットつきである。豪華である。



いきなり何の写真だ、と思われそうである

3月2日、僕は東京から高知へのロング・ドライブ(車はベコボコしたNISSANヴァネットだった)を経て佐川町へ来ていた。田舎屋さんでの食事を懐かしみ、佐川町の協力隊のお二方にお相手していただいた。あの日多くのものがせりにかけられるように「中古品販売に出す」と断捨離されるというイヴェントがあったけれど、あれらの思い出はどのように処理されたのだろうか。


田舎から 田舎へうつる 春の人


うどんである

仏生山温泉である

3月3日、僕は高松に来ていた。もちろん懐には『海辺のカフカ』をしのばせながら、大島さんの図書館はどこにあるのだろうかと不思議に思うこともなく、ただうどんを食べた。僕はほとんど食に無頓着だから、あやうく丸亀製麺で食べてしまうところだった。が、そこは事前に美味しいうどんの情報をくれる新説、いや新設、いえ親切(どうやら僕のPCの返還は、いえ変換は親切ではない)な方々のおかげで、無事宮武うどんさんにたどり着くことができた。おまけに仏生山温泉という洒落た空間まで教えていただき、僕が借りていたヴァネットもなんとか駐車場の洒落た雰囲気におさまりながら、高知から香川への旅を締めくくることができた。


流るるは 麺と涙と 氷柱露



うどんではない

3月4日、もう自分の身体の一部と化していたNISSANヴァネットを世田谷区のレンタカー屋に返却し、僕は東京との別れを告げるためにある場所にいった。新幹線の時間は差し迫っていて、それは品川駅周辺で為されなければならない辛い別れだった。品川二郎、大豚、野菜フツウニンニクありカラメアブラ多め。I've Never Been in Love Before、そしてLong Goodbye。僕は東京の象徴としての品川二郎を飲み込みながら、渋谷の喧騒や恵比寿の高飛車、そして幾多もの夜の慟哭を思い返していた。のぞみはもう、出発していた。


渋谷川 水面にうつる 顔は昨日の



どこの駅かおわかりになるだろうか

関ロッヂ、また行きたいなぁ

東海道444.4km(日本橋から)

東海道の途中で、憔悴

3月5日、僕は名古屋駅付近から東海道を歩き始めた。なぜ東海道か?そのあたりは掛川くらいを歩いていたときのこちらの記録を御参照くださいませ。とにかく僕は歩いていた。名古屋駅から四日市、四日市から関宿、関宿から水口まで・・・。この際ははじめて、東海道を歩いているウォーカーの方とすれ違い、言葉を交わすことができた。はじめての出来事に感動しつつ、さった峠を夜中に越えたことを思い出す。そりゃ、人に会わんわ・・・。


水口から京都・三条大橋までの東海道残存分は、30歳を迎えるまでに歩き切ると25歳のときに決めている。あれから、5年が経ったのか。幾人もの人を通り過ぎ、幾人もの人が僕の上を踏み越えていったように思う。


遠海の さざなみや散る 足音に



そして、京都へ

おじさんがラスボス感満載で歩いてきた

3月8日に僕は京都につき、すこしばかりの観光をした。映画村は昔父といって「ユニバよりぜんぜんおもろいな」と子どもならぬことを言ったな、なんて思いだす。京都にはやはり、森見登美彦作品を持参せねばならぬ。次回は持参必須である。


宵明り 右か左か 酔いざかり



ほいで博多に戻る

冷気で何が何やらわからぬ

3月13日、もう引っ越しの旅(本当に引っ越しをしているのか?)も半ばである。博多に戻って海風土(シーフード)を頼んだり、そんなことをしていた。それだけである。


可愛い

恐ろしい

・・・やっぱり、それだけではないようである。人生で一度でいいから、ヘンリー・デイヴィッド・ソローみたいに立派な髭を生やしてみたかった。でもせいぜいこんなものだとわかったので、もう、剃ることにした。


Untrimmed beard on the Chin

Of an obedient man,

Which handled his Insane

Deeds, till it's clean-shaven.



剃ってねぇじゃねぇか

宮崎のGOODDAYS様にて

※髭面で食べています※

みんなこぞってこのポストの写真を撮っていた。もはやそれは、ポストではない

3月17日、僕はまだ髭を剃れずにいた。別れは惜しいものである。なかなか踏ん切りのつかないカミソリに、僕は声をかける「たった一瞬だよ。これは通過儀礼みたいなものなんだ。誰もが痛みを味わうことを避けられないし、一度過ぎてしまえばそれは何でもなかったことになる。初恋と同じだよ。『イニシエーション・ラヴ』だ」


カミソリは憤然として僕を見る「あなたにとっての初恋は、そんなふうな『何でもなかったこと』だってこと?私はあなたと過ごした時間についてそんな言い方をすることはなかったし、これからもきっとないはずよ。ずっと。それはモラリティの問題なのよ。私はしょせんカミソリよ。髭を剃るためのカミソリ。それ以上でも以下でもない、形而上学的な意味においても形而下においても、ただのカミソリ。それでも私には、あなたみたいな言い草をしないだけの分別ってものがある。それだけはあなたに今言っておかなくちゃいけない」


僕はただ「モラリティ」と言って、彼女を洗面台のプラスチック・ケースに戻した。


恋慕う 太平洋の 海の底



ひどい

都井岬の馬はこちらを向いてくれない

都井岬にて

3月18日、せっかくなら宮崎県を北から南まで見ておこうよ、ということで都井岬までいってみた。なかなか根気のいる道のりだったけれど、うるさいカミソリは家に残してきたし、髭はあるしで気楽な旅だった。馬はやせていて毛が堅そうで、僕は彼らが髭やら体毛やらを剃ることはあるのだろうかと考えてみた。つるつるの馬。


一口の 次にはまた 二口目



博多ふ頭に沈む夕日

3月23日、僕は髭を剃った。


沈みゆく 夕日流れ出る 髭からまり



志賀島から福岡ドームなどのベイエリアをのぞむ

志賀島、キッチン島にて

3月24日、福岡に来る人みんなに行ってほしい場所海の中道を訪れた。古くからの思い出が金印の記憶と重なり、つるりとした顎を幾分か落ち着かせてくれた。


春桜 アームストロングの 木はなにか


何度目だろうか

御船山楽園でアートを望み

チームラボの灯りに誘われ走光性

うどんではない

3月25日、祖母の生誕地である武雄を訪れる。井出ちゃんぽんは大盛がすごいと聞いていたがまるで虎の穴に巣くうキツネみたいに拍子はずれで、僕は二郎のことを思い出さずにはいられなかった。


三田の公孫樹 ヴィッカス・ホールは よかったな



多布施川河畔公園の桜

嬉野で寿司くう嬉しいの

宝珠寺にて桜

宝珠寺と桜

3月26日、武雄からの帰り道に桜を拝む。宝珠寺には遠い遠い昔に来たことがあるらしいが、これまでに見たどんな桜とも重ならなかった。年に一度だけ咲くこの花は、毎年毎年姿を変えているのだろう。同じ人と見ようが違う人と見ようが、その桜もまた別のものなのである。


暮れ桜 夕焼けの音 かき抱けば



母校に挨拶をして

神殿のようDA

中洲の夜景におどる「ハッピーメール」をかし

3月27日、いよいよ福岡も最終日ということで母校である東福岡高等学校を訪れる。何やら東フェスのお手伝いなどするもをかし。中洲の夜景はまた綺麗であるが、中洲橋のガス燈が失われたことは悲しまれるべきことである。


酔い暮れて 歩く道曲がり ただひとり



奥日向路の桜は絶えず

桜並木のけふは浅き夢みじ

3月30日、いよいよ椎葉村へ。日向から向かう道のりで出会う桜並木は、目黒よりも上野よりも河津よりも、はたまた宝珠寺よりも美しかった。この桜を来年もみるのだと、風景を切りとりながら思った。



大久保から風景を

大久保の桧にご挨拶をして

これから住まわせていただきます、と大久保の桧にご挨拶をした。住むのは、上椎葉なのだけれど。


三田公孫樹 大久保の桧 重ならず


友達もできた

3月31日、こんなわけで僕は椎葉に住み始める。東京から自力で引っ越しをすることはただならぬ作業で、家族に大いに手伝ってもらった。そんなことじゃいけないと思いつつ、ありがたい。


西日本をめぐりながら過ごした3月は、まさに桜を追うかのような旅の連続であった。出会い、また別れ、僕たちは過去を捨て去る。しかしながら船旅の操舵手たる人生は、ときに前を見、ときに振り返る。オールを持つ身は何しろ、進行方向とは逆向きなのだから。


4月以降の振り返りはいよいよ椎葉のことばかりである。髭もない。どうか安心して、この先をお見守りいただきたいと願うばかりである。



十根川神社様にもお参り

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